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公開日2022.06.29

最終更新日2024.02.24

ホテルが地方創生に貢献するワケ

現在、国をあげて地方創生への取り組みが活発化しています。このまま東京一極化が進むと、経済や人口の偏りだけではなく、日本としての国力も低下する可能性があるからです。地方創生活動の中でも持続可能な事業として注目を集めているのが「ホテル」。なぜホテルが地方創生につながるのか、そしてどのような取り組みが行われているのかを解説します。

地方創生とは

地方創生に、なぜ「ホテル」が注目されているのでしょうか。それは、ホテルには地元以外の人が集まるうえ、仕事や雇用の創設など、地域経済活性化につながる継続可能な施策だからです。この章では、そもそも「地方創生とはなにか」ということをお伝えし、次の章でホテルが地方創生につながる具体的な理由を解説します。

地方創生は「町おこし」ではない

地方創生は、単なる「町おこし」とは異なります。過去にも地域に人を集めるイベントや取り組みはさまざまな形で行われていましたが、一時的に注目が集まるものの、時間と共に効果は薄れていくケースがほとんどでした。しかし、政府は2014年に「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、地方創生へ向けて本格的な取り組みを始めました。

地域創生とは

地方創生とは、少子高齢化の日本において、東京圏への一極集中による地方の空洞化を防ぎ、それぞれの地域で住みやすい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目指すものです。

つまり、「将来の日本社会を維持するには、継続的な地方創生が欠かせない」。その取り組みを国として推し進めるための政策なのです。

いま、地方創生が急がれる理由

地方創生が急がれる理由は、2008年から始まった人口減少が、今後加速度的に進むからです。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、現在約1億258万人いる日本の人口は、2060年には9,000万人を割り込み、高年齢化率は40%になると予測されています。

人口減少は日本の国力の低下と直結します。たとえば、東京一極集中がこのまま続行する場合、起こるとされる影響は次のようになります。
(参考: 内閣府地方創生推進事務局「まち・ひと・しごと創生総合戦略」

東京一極集中が続くことで起こるとされる地方への影響

  • 労働力の低下により、国際競争力の低下
  • 食料自給率が低下し、外国に依存
  • 第一次産業、さらには第二次産業が衰退
  • 社会保障制度・医療福祉制度の破綻
  • 首都直下型地震などの災害により、日本の機能が停止

さらに、これは地方だけの問題ではなく国としての問題へと発展します。

東京一極集中が続くことで起こるとされる国への影響

  • 労働力の低下により、国際競争力の低下
  • 食料自給率が低下し、外国に依存
  • 第一次産業、さらには第二次産業が衰退
  • 社会保障制度・医療福祉制度の破綻
  • 首都直下型地震などの災害により、日本の機能が停止

これらの問題は、遠い未来ではなく、現実問題として今すぐに対策を行う必要があるのです。そして、地方を活性化することで、人口減少に歯止めをかけることが、地方創生の大きな目標となっているのです。

では、どうして地方創生が「ホテル」と関係するのでしょうか。地方創生にホテルが貢献できる訳を、次の章で解説します。

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なぜホテルが地方創生に貢献できるのか

前の章でお伝えしたとおり、地方創生は長期的に活力ある日本を維持するためには必要不可欠となります。そして、「地方創生の起爆剤」と言われているのが、「ホテル」なのです。その理由として5つを挙げ、それぞれを解説します。

ホテルが地方創生に貢献できる理由

  1. ホテルはその地域に人を呼ぶ
  2. ホテルは地域経済を活性化する
  3. ホテルは地域の魅力を発信できる
  4. ホテルはローカル資源を活用できる
  5. ホテルによる地方創生が少子化問題を緩和する

ホテルはその地域に人を呼ぶ

ホテルがあることで地域以外の「県外」の人を呼ぶことができます。たとえば、地域のローカル資源(絶景地、変わった施設、奇祭など)をテレビなどで取り上げられ、多くの人が関心を持ち、「行ってみたい」と思われて検索されたとします。

しかし、交通手段も宿泊施設もないと気軽に観光するというハードルが高くなり、「無理だね」で終わってしまいます。ところが気軽に泊まれる魅力的ななホテルがあると、「旅行がてら行ってみようか」という行動の後押しになります。また、変わったコンセプトや内装、サービスが魅力的なホテルは、それだけで人をひきつけます。

ホテルがあることで、遠方や県外の人を呼び寄せることが可能になるのです。

ホテルは地域経済を活性化する

ホテルは、地域経済を活性化することができます。ホテルは宿泊がメインになるかもしれませんが、宿泊と合わせて食事、購買、レジャーなどの経済活動はほぼ確実に行われることになります。ホテルの利用が増えると、単純に地域のお店を利用する人が増えます。地元交通を利用し、飲食店などの利用が増え、お土産が売れるのです。

たとえ、ホテルがチェーン店だったとしても、実際に働くのは地域の人たちです。仕事が生まれ、雇用が増え、ホテル関連の商取引が始まります。こうして良い循環が起こり、地域経済を活性化することになります。

ホテルは地域の魅力を発信できる

ホテルは地域の魅力を発信する力があります。今までのホテルの多くは、観光や目的があるから利用するものでした。しかし、最近ではホテルの多様化が進み、そのホテルに宿泊することを目的とする人が増えています。たとえば、コンドミニアムや1棟貸し施設、またはグランピングなど、「ちょっと変わった体験をしたい」、「非日常感を味わいたい」という期待に沿うホテルが人気となっています。

しかし単純に「変わっているホテル」だけでは魅力が長続きはしません。ホテルのコンセプトやその土地ならではのおもてなし、地域の歴史や地域との関わりなど「ストーリー」を発信することで、多くの人々をひきつけ、長く愛されるようになります。最初はホテルだけに注目していたとしても、地域の魅力を知るきっかけとなります。

ホテルはローカル資源を活用できる

ホテルは地元で眠っていたローカル資源を活用することができます。たとえば、地方には重要文化財となっている建物はたくさんありますが、いずれも保存・維持に多くの費用や手間、時間がかかり、十分に生かされているケースはわずかです。

しかし、そういった文化財を「宿泊施設」として活用する取り組みが注目を集めています。中には「お城」に宿泊できるプランや、江戸時代に建立された長屋、国指定重要文化財での宿泊などの事例もあり、ゲストは究極の「非日常感」を楽しめます。

文化財のホテル化は、保存・維持のための費用を捻出するだけではなく、文化財自体を広く紹介することになります。テレビやネットだけの情報ではなく、じかに来て、見て、宿泊してもらう体験は、その土地の魅力を直接伝えることになります。

ホテルによる地方創生が少子化問題を緩和する

上の章でもご紹介しましたが、ホテルが注目されることで、地域の経済が活性化し、雇用が生まれ、子育てしやすい環境が生まれます。たとえば、東京へ移住する人は、単純な「憧れ」だけではなく、地元に良い就職先がないから、というケースも多くあります。

政府による「若年層の働き方に関する意識調査」では、「地元の就職先を選ばなかった理由」として、1位が「東京圏で仕事をしたかったから」、そして2位が「地元では希望する仕事がなかったから」となっています。地方で魅力的な仕事が増えることで、人口の流出を防ぐことも可能なのです。

また、ホテルによる集客は、地域を知ってもらうことで、愛着を感じた人が移住するという効果を発揮することもあります。地域創生にはホテル以外の方法もありますがホテルは不動産なので、一時的ではなく持続可能な方法として大きな意味を持つといえます。

の章では、ホテルの地域創生について、実際にどのような実例があるのか見ていきましょう。

【地方創生】ホテル取り組みの事例4選

この章では、ホテルのあり方が地方創生に貢献している実例をご紹介します。これらのホテルに共通するのは、単にホテルの収益だけではなく、地域の活性化を考えられており、地域社会や県外のゲストから愛されるコンセプトが明確であるという点です。では紹介していきましょう。

商店街の空き店舗をホテルとして活用するSEKAI HOTEL

地方の衰退の象徴ともいえる空き店舗の多い商店街、いわゆる「シャッター街」は、視覚的にも寂れている印象が強く、さらに足が遠のくという悪循環に陥りやすくなっています。その空き店舗を「ホテル」として利用することで、新たな価値を与える取り組みが注目を集めています。

SEKAI HOTELは商店街をまるごとホテルとした「分散型ホテル」です。「旅先の日常に飛びこもう」をコンセプトに、商店街に点在する空き店舗や空き家を「客室」としてリノベーション。もちろん、通常のホテルとは違い、レストランや浴室も併設されていないので、モーニングは近所の喫茶店を利用し、お風呂は銭湯、お土産は商店街内の店舗など、商店街まるごとがホテルとなります。

ゲストは、地域の住民とのふれあいやおしゃべりなど、その土地ならではのコミュニケーションを楽しむ事ができます。商店街にとっても視覚的にマイナスな空き店舗がうまる上、経済的な効果も起こり、地域全体が活性化する成功例といえるでしょう。

衰退する市街地にアートホテルで地域活性 白井屋ホテル

「アートホテル」とはホテル内や客室が美術的な魅力を持っており、ホテル全体がアートギャラリーになっているなど、まるで美術館に宿泊するかのような体験ができるホテルです。その多くがメジャーな観光地や、都心に建てられることが多いのですが、あえて衰退している市街地に作り、地域活性化を目指しているのが白井屋ホテルです。

前橋市は群馬県の県庁所在地でありながら、市内の商店街はシャッター街となっており、街の衰退化が顕著になっています。歴史のある白井屋ホテルもその影響を受け廃業していましたが、前橋市の活性化のプロジェクトとして、6年の歳月をかけて、アートホテルとしてフルリノベーションしました。

白井屋ホテル代表取締役は「このホテルを市民の誇りの場になるようにしたい」と語っており、あえてホテルの表通りと裏通りをつなぐ道を作り、地域の人が自由に行き来することができるように工夫されています。

食材も必ず群馬県産のものを使用し、スタッフの9割は群馬県出身と、「地元のために何ができるか」という視点にたった経営がされており、地域創生のための取り組みとして注目を集めています。

300年の歴史をタブレットを通して発信 松田屋ホテル

地域の魅力を積極的に発信する取り組みも始まっています。たとえば、FacebookやInstagramで発信したり、インフルエンサーを使ってPRしてもらったりする方法などは多くの自治体でも行っているでしょう。しかし、SNSでは表面的な特徴やイベントなどのお知らせには重宝しますが、本当に伝えたいホテルや地域の歴史、文化などの「ストーリー」を伝えるには限界があります。

そこで「モバイルなどを利用してホテルの宿泊客にストーリーを伝える」という取り組みが始まっています。松田屋ホテルは山口県の湯田温泉にある老舗旅館です。30年に渡る歴史があり、坂本龍馬や西郷隆盛、木戸孝允などの偉人が利用したことでも知られ、館内には明治維新資料室が設置されています。

ところが、歴史的にさまざまな出来事が多く、魅力の全てを伝えることが難しいということから、専用のタブレット(地域創生コマースプラットフォーム)を導入しました。ゲストは客室でのんびり過ごしながらコンテンツを読み進めることができ、自分の好きなタイミングで館内の歴史を探検することができます。

このタブレットでは施設の案内だけではなく、その土地の観光地や食べ物、特産品などを紹介し、その場で購入することができます。その商品の良さや背景を知って購入するので、収益も上がりやすく、また広い分野で紹介することが可能になります。

こういった老舗旅館が最新の技術を導入することで、魅力が伝わりやすくなり、また施設や地域のものづくり事業者に貢献できるという好循環を生み出すことが可能になっているのです。

高齢化や人手不足をホテルのIT化でカバー SEN.RETREAT TAKAHARA

すでに高齢化などが進んでいる地域では人手不足が深刻化しており、「これ以上地域活性化なんて」と考えている自治体も多いでしょう。しかし、IT技術を取り入れることで人手不足をカバーし、地域を盛り上げることに成功しているホテルがあります。

SEN.RETREAT TAKAHARAは世界遺産にも登録されている熊野古道沿いにある完全無人運営のホテルです。熊野古道がある地域では、観光客向けの宿泊施設が不足してはいたものの、高齢化による人材不足で新たな施設の運営ができない状態でした。

そこで、セルフチェクインシステムやスマートロックなどのIT技術を活用することで、スタッフを必要としない無人ホテルを運営することが可能となりました。高齢化が進む地域でも実施可能な取り組みとして注目を集めています。

運営側にとっても、ゲスト側にとっても負担がかからないスタイル

  • 宿泊は空き家だった民家をフルリノベーションした完全一棟貸し
  • 食事は地元JAによる食材を提供、BBQなどゲストに調理してもらうスタイル
  • お風呂ではなく共用スペースにシャワールームの設置

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【まとめ】ホテルが地方創生に貢献するワケ

いかがでしたでしょうか。地域創生は単なる「町おこし」ではなく、ホテルのような持続可能な取り組みが必要であることがおわかりいただけましたでしょうか。

大きなイベントなどでの人集めとは違い、ホテルは地域創生への取り組みが持続しやすく、継続的な雇用や仕事の創設など地域経済の活性化も実現可能です。それには、ホテル単体の収益やサービスだけを考えるのではなく、多くの人の興味を引き、地域の方から愛されるコンセプトや戦略が必要です。

アフターコロナでは、さらにホテルの生き残り競争は激化すると見られており、宿泊業界はまさに変化するべき時期に来ているといえるでしょう。

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