公開日2024.04.22
【豊橋市】煩雑な学校開放の手続きを「RemoteLOCK」&「まちかぎリモート」で効率化【イベントレポート】
学校体育館の空き時間を市民が利用できる!しかし利用の予約手続きは複雑で煩雑、予約管理も一苦労…。利用者だけではなく、施設を管理する職員や学校の先生にも煩雑な仕組みを解決するために、豊橋市と構造計画研究所(以下KKE)は、鍵と予約の管理を一体的に運用できる仕組みを構築・運用する実証実験を行いました。
実施内容とその成果、実際にプロジェクトを担当した市の職員様目線での振り返りを、報告会の様子とともにお伝えします。
豊橋市の課題~”ど”煩雑な学校開放の手続き~
- ▲ 報告会が実施された豊橋市役所内の会場。当日の参加申込者数は60名を超えました。
※報告会では、豊橋市「スポーツのまち」づくり課の青竹様より、実証実験の内容をご講演いただきました。
以下内容は、青竹様のご講演内容に基づき、KKEにて再構成した内容となります。
現在、豊橋市では市内の小中学校75校を対象に、小中学校の空いている時間である平日の夜間や土日祝日に、運動や体育館・武道場を市民の方に開放しています。この開放を利用して、多くの市民の方がスポーツを楽しんでいます。多くの方が利用する学校開放ですが、実は利用までの手続きが ”ど” 煩雑という課題を抱えています。
- ▲「スポーツのまち」づくり課の青竹様から、実証実験内容をご報告いただきました。
利用者はまず学校に空き状況を問い合わせます。そして、空いていることを確認してから、市内のスポーツ施設で利用券を購入、申請書に記入し、利用券を貼って学校に提出します。利用当日は、体育館の鍵などを管理している窓口に行き鍵を借りてから、施設を利用します。利用者はたくさんの手続きを行う必要があり、利用手順は煩雑です。
利用者にとっては、空き状況を確認するために各学校に直接問い合わせをしなければなりません。利用するためには、3つの窓口に行く必要があり、利用は煩雑です。また、鍵を借りに行く時間には制限があるため、市民館の場合は5時までに鍵を借りに行く必要があります。
- ▲ 学校開放の利用フローのイメージ。利用者は複数の窓口を訪れる必要があります。
利用者だけではなく、管理者にとっても課題があります。
例えば、予約の受付は学校の先生が行うため、教員の多忙化の一因となっています。紙での申請となるため、各学校の予約の空き状況を管理している側は、すぐに状況を把握することもできません。また、管理・集計は手作業で実施しており、年間で約1万2千件もの書類を処理する必要があります。
スポーツができる場をさらに充実させ、利用者は手軽に施設を利用でき、学校開放に関わる人たちの事務負担も軽減する。そのような姿を実現するために、豊橋市とKKEで協同して課題解決に取り組むことになりました。
自治体と企業のマッチングプラットフォーム「Urban Innovation JAPAN」
今回の実証実験は、Urban Innovation JAPAN(以下UIJ)の枠組みを活用した「アーバンイノベーション豊橋」で公募・採択されたことで、実施されました。
UIJとは、自治体の課題とスタートアップ・民間企業をマッチングするオープンイノベーション・プラットフォームです。自治体の担当者が新規事業を考える時に避けられない、下記のような課題の解決をサポートしています。
- 適切な委託事業者を見つけられない
- 企画書をどう書けばよいか分からない
- 十分な検証ができてないので、自信を持って予算確保ができない
UIJは令和2年度に神戸で開始して以降、兵庫県外では、豊橋市が初めての実施となります。令和5年度までに、愛知県内では8自治体、全国では22の自治体が、実施をしています。「RemoteLOCK」と「まちかぎリモート」は「アーバンイノベーション神戸」でも採択されています。
実証実験の内容と成果
今回、豊橋市とKKEで実施した内容は、以下の2点です。鍵と予約が連動したシステムを導入することで、予約システムで予約を受け付けると 施設の鍵を開けるための時間設定のある暗証番号が発行される、という自動化の仕組みを実現し、課題解決を目指しました。
実証内容
- オンラインで予約できる予約システム「まちかぎリモート」
- 学校の鍵の解錠施錠ができる電子錠システム「RemoteLOCK(リモートロック)」の導入
実際の実証実験では、KKEの予約システムとスマートロックを連動したシステムを、市内の小学校2校と中学校1校に導入しました。実証実験は、11月下旬から1月末までの約2か月間行い、約30団体にシステムをご利用いただきました。
- ▲ KKEが提案する予約受付から施設利用までの流れ。
利用の手順として、利用者はまず、予約システムを使って施設を予約します。予約をすると、暗証番号が送られてきますので、その暗証番号を使って利用施設の解錠を行います。
- 学校に設置したRemoteLOCKのイメージ。
小学校1校には、体育館の扉にスマートロックを取り付けて、暗証番号を入れると鍵が開くといったシステムを導入し、それ以外の2校では、キーボックスを取り付け、暗証番号を入れると、箱が空いて中の鍵を取り出すことができ、施設を利用できるという仕組みを構築しました。
- 予約システム画面のイメージ
予約の際は、利用したい学校をまず選択し、グラウンド・体育館などの施設を利用するのかを選びます。次に、表示されたカレンダーから、利用したい空きコマを選んで予約を行います。実証後の利用者向けアンケートでは、「予約システム・スマートロックで便利になると思いますか?」という質問に対しては、89%の方が便利になったという回答結果を得られました。
また、「予約システムはわかりやすかったですか?」については、67%の方がわかりやすかったと答えています。スマートロックの利用についても78%の方にわかりやすかったとご回答いただいています。
今回の実証実験で得られた利用者目線のメリットは主に下記の3点です。
利用者にとってのメリット
- 各学校への問い合わせ不要で、空き状況がネットからすぐ分かるようになった
- 利用者は 3つの窓口に行く必要があったが、2つに減った
- 鍵を取りに行く時間の制約がなくなり、利便性が向上した
管理する側にとっても、
施設管理者にとってのメリット
- 各学校の予約状況をネットですぐに把握できる
- csvデータで管理集計ができるようになり、実績の手入力が不要になった
といった成果がありました。
一方で、本格導入に向けた今後の課題も見つかりました。
まず、事務負担の軽減です。今回の実証実験では、利用券を申請書に貼りつけ学校に提出する作業が残っていたため、学校の先生の事務負担の軽減には、改善の余地のある結果となりました。この負担の軽減には、例えば、申請書のペーパーレス化、電子決済の導入等も必要になると考えられます。
次に、予約方法です。ネットで誰でも予約できるようになると、その施設を使っていた地元のスポーツチームなどが、その地元の施設を使えなくなるのではないか、という不安の声も上がりました。利用予約のルールを整備していく必要があります。
最後に、非常時の対応です。実証実験では、休日や夜間に、鍵の利用方法についての問い合わせが数件発生し、職員が夜間に出動することもありました。実際に導入する場合、非常時にどのような対応が必要であるかの整理が必要です。
担当者が語る、振り返りとこれからの課題
- パネルディスカッションの様子。「つらい場面はなかった」と ✕印を掲げるKKEの岡田(左から3番目)。
司会:
「スポーツのまち」づくり課様の発表の中で、KKEが頼りになったというご感想をいただいていましたが、具体的なエピソードがあれば、お聞きしても良いでしょうか?
青竹様:
対応スピードがめちゃめちゃ早い。ここが分からないんです、というのがあっても次の日ぐらいにはこうです!と返事があり、わからないことに対してのレスポンスが早くて信頼感がありました。実際にドアが開かないといった現象があったときも、原因は何かについて、すぐ返事があったりだとか、すぐ業者さんを手配していただいたというところも含めて、よかったなと思います。
司会:
次に構造計画研究所さんにもお聞きします。今回、神戸のプロジェクトに続き2回目のご参加となりました。参加して良かった点と、2回目の参加に踏み切った理由をお伺いしたいです。
岡田:
弊社も、実は独自で実証実験をやりませんかと募集をして、弊社と自治体様で実証実験を実施することがあります。UIJさんに間に入っていただくことで、コミュニケーションのハブになっていただける点がものすごく大きいです。
今回すばやくお問い合わせに対応できたのも、slackのグループを作っていただいて、そこでパッとできる解決できる環境があったというのは非常に大きかったです。
実際に実証実験を実施するにあたっても、当然学校施設を巻き込む話なので、やはり市の中では教育委員会さんと調整する必要があり、それを一つの課の方が調整するとなると結構時間がかかって大変な話になってしまいます。それをUIJさんが潤滑油となって、いろんな課を巻き込んで、コミュニケーションをとっていただけるというのは、我々にとって、ものすごくありがたい話です。その点でやはり今回も参加してよかったなと思っております。
司会:
想定外の新しい発見などありましたか?
岡田:
今回はどちらかというと、弊社の発見は(よい意味での)ネガティブな発見です。やはり足りていないのかな、という部分は、学校教員の負担がそんなに楽になってないという、今後の課題として挙げられていた点です。
予約や鍵の受け渡しの部分は、利用者目線ではとても楽になるのですが、各自治体の各施設が抱えている課題は微妙に異なるというところがあります。実際に、他の自治体様ですと、カギの受け渡しがなくなって、すごく楽になってハッピーだ!という意見も多いです。
一方で、今回の豊橋市様では、支払い手続きや紙の書類の部分がまだ残っている、というところが浮き彫りになったことが、いい意味での、新しい発見なのかなと思っています。その部分は、運用を変える必要があったり、条例や規約が関わるチャレンジングな部分でもあると考えています。
司会:
正直、辛いと思った場面はありましたか?
青竹様:
日常の業務がある中の実証実験っていうところで…。ちょうど予算要求の時期と被っていたっていうのがあって、繁忙期と実証実験が被ってまあ、体力的に(笑)
司会:
こういう自治体の方にぜひ参加をすすめたい、というのはありますか?
青竹様:
業務でもっと良くしたいのに、これがもっと良くなれば…利用者も、管理する側もめっちゃ楽になるのに!という業務は結構あるのではと思っています。そういう思いがあれば、市民のためにも、業務負担(の軽減)にも、みんながハッピーになるようなところだと思うので、少しでもやってみたいなと思う方がいれば、ぜひ参加してみていただきたいなと思います。
司会:
学校開放以外にも、例えば、防災の観点で避難所へのスマートロックの活用などもお話しがあると思います。他部署や他用途への展開という観点でなにかお話しはありますか?
岡田:
今、鍵管理を手動でやっていますよ、というところは、大体どこでも当てはまる話かなと思います。避難所ですと、「窓ガラス割られちゃいました」という問い合わせが最近増えています。実際にニュースでも、職員が誰も来ないから窓ガラスを破りました、みたいことがあったりします。
実は、北陸の方で、このスマートロックを導入いただいている地域があります。そうすると、緊急用の暗証番号をあらかじめ設定しておけば、この番号を押して入ってください、ということが言えます。実際、この自治体さんは窓ガラスを破られませんでした。
通常時には鍵の受け渡しの省力化に使っていただいて、緊急時は災害の時に解錠して入っていただく、というような両輪の使い方ができる点がリモートロックの良いところかなと思います。比較的、施設を選ばず、導入いただけると思ってます。
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イベントレポートは以上となります。いかがでしたでしょうか?当日は、参加者の方々から想定を超えてたくさんの質問をいただき、質疑の時間が延長戦に突入する場面も見られました。自治体職員様や関係者の皆様の施設予約・鍵管理課題への問題意識の高まりを、ひしひしと肌で感じました。
- 講演後の実機の展示イベントでは、たくさんのご質問をいただきました。
構造計画研究所は、引き続き、学校開放を始めとした公共施設予約・管理の課題解決に取り組んでまいります。課題を解決したいという思いをもった皆様からのお問い合わせをお待ちしております。