公開日2025.10.20
あの企業がホテル経営?異業種参入で変化する宿泊業界
インバウンドが過去最多を更新している現在、ホテル業界では、「異業種の宿泊業参入」が相次ぎ、開業ラッシュとなっています。なぜ、今、ホテルの異業種参入が増加しているのでしょうか。その背景や、メリット、成功事例もご紹介します。
ホテルの開業ラッシュ!なぜ今「異業種の宿泊業参入」が注目なのか
現在、ホテルの開業ラッシュが、大変注目を集めています。というのも、「異業種の宿泊業参入」が相次ぎ、競争が激化しているからです。今、なぜ、異業種事業者がホテル事業に参入するのか、その背景とメリットについて、解説していきましょう。
異業種参入が増加している背景
ホテル業界に、異業種参入が増加している背景として、「インバウンド需要の急増」と、「多様化する宿泊ニーズ」という2つの要因があります。
新型コロナ禍で一時的に落ち込んでいた旅行者数は、2023年以降に急増しました。実際に、JNTO(日本政府観光局)によると、2024年の訪日外国人観光客数は3,686万人に達し、コロナ禍前の2019年(約3,188万人)を約500万人上回り、過去最多を更新しています。2025年に入ってからもその勢いは続いており、単月でも過去最多を記録するなど、全国的に、ホテル需要が加速しているのが現状です。
更に、従来の宿泊形態(ビジネスホテルなど)に加え、ラグジュアリーホテル、体験型ホテル、グランピング、新しいスタイルの宿泊施設が求められるようになっています。新規事業者や、異業種企業が独自のブランドやサービスを、自由に持ち込みやすい環境といえるでしょう。その他にも、次のような理由があります。
上記のように、民泊新法や規制緩和、IT活用で業務効率化が進み、参入のハードルが低いことも、理由の一つといえます。
異業種参入のメリットとは
では次に、異業種企業が、宿泊業界へ参入するメリットを見ていきましょう。
既存事業とのシナジー効果
ホテル経営は、既存事業の強みやノウハウを活かした運営が可能です。たとえば、飲食業なら自社食材の提供、家具・雑貨メーカーなら自社商品のみで構成したホテルなど、一般的なホテルとのサービスの差別化で、話題性や口コミ効果が期待できます。
独自サービスやブランド展開
異業種の強みや技術で、新たな宿泊体験(スマートキー、無人運営等)を提供すれば、自社商品の販促や知名度向上に繋がります。
宿泊事業を通じた新たな顧客層の獲得や、ブランド力強化も期待できるでしょう。
新規収益源の確保
宿泊事業が成長市場であることから、新たな収益源を確保することができます。インバウンド需要や長期滞在のニーズ増加も後押しとなり、本業とは別の、安定した収益が期待できます。
地域貢献・地域活性化
地方での宿泊施設提供で、観光誘致や雇用創出など、企業イメージの向上効果があります。
地元資源活用の独自プログラムを展開するなど、様々な取り組みで、地域の活性化も促進できます。
投資価値の高さ
ホテル経営は、不動産や事業承継としての価値もあるでしょう。M&Aを活用した効率的な参入や、経営基盤の強化が期待できます。
あの企業もホテル経営を始めている!異業種参入事例
では、実際に、どのような企業がホテル経営に参入しているのでしょうか。
ここでは、カタログ通販のベルーナと、無印良品の、2つの成功事例を見ていきましょう。
ベルーナ「洞爺サンパレスリゾート&スパ」
アパレル・雑貨や化粧品など、カタログ通販事業を手がけているベルーナは、成長戦略の重要な柱の一つとして、ホテル経営を積極的に拡大しています。その一つ、「洞爺サンパレス リゾート&スパ」は、湖と一体化したような絶景露天風呂や、道内最大の屋内プール「Water Land」が大人気の大型リゾートホテルです。
このホテルは、2023年3月、運営会社のKarakami HOTELS&RESORTSから株式会社ベルーナへ資産譲渡されており、異業種企業間のM&A成功事例といえるでしょう。
他にも、ベルーナでは、都市型ホテル、リゾートホテル、旅館など、多様な形態のホテルを国内外で運営し、ビジネスやレジャー、インバウンドなど幅広い層の需要に対応しています。
無印良品「MUJI HOTEL GINZA」
「MUJI HOTEL GINZA」は、シンプルで機能的な商品を幅広く展開している無印良品が、2019年4月に開業させたホテルです。アメニティやリネン、家具、家電に至るまで、すべて無印良品の商品を使用しており、宿泊するだけでMUJIの世界観を体感することができます。
また、リーベルホテル大阪内にある、「MUJI room LIBER HOTEL」では、「新しいくらしの共創の場」をコンセプトに、地元工作所と協力し、家具やアートワークを制作しています。単なるホテル経営だけではなく、地元の魅力を生かした空間づくりを通して、地域活性化への支援も積極的に行っています。
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撤退リスクもあり!宿泊業の異業種参入の3つの「障壁」
これまで、宿泊業の異業種参入の成功事例やメリットをお伝えしてきましたが、良いことばかりではありません。実際に、宿泊業の異業種参入には、多くの課題と障壁が存在し、撤退した企業もいくつかあります。この章では、異業種参入に伴う、主な3つの障壁について解説します。
異業種参入に伴う、主な3つの障壁
- 運営ノウハウ不足による失敗リスク
- 人材確保の難しさと労務管理
- コスト削減と収益構造の最適化の難しさ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
運営ノウハウ不足による失敗リスク
異業種から参入した企業は、宿泊事業への運営経験が不足し、ゲストからの要望に応えきれないケースがあります。宿泊業界は、他の業種以上に、顧客満足度を高めるための、きめ細やかなホスピタリティが不可欠だからです。
たとえば、部屋の温度調整など、ちょっとしたクレームに対しても、迅速かつ丁寧に対応しなければなりません。対応がまずければ、顧客からの支持を得るどころか、リピーター獲得の失敗や、悪い口コミの拡散などに直結してしまうでしょう。
その他にも、業界を知らないために、次のような可能性があります。
運営ノウハウ不足による失敗リスク
- 価格設定やサービス内容のミスマッチ
- ターゲット設定やマーケティング戦略の欠如
- ホテルを円滑に運営するためのソリューション不足
まずは、一般的なホテル運営ノウハウの習得や、経験者の採用・育成が、事業成功の鍵といえるでしょう。
人材確保の難しさと労務管理
ホテルや旅館など宿泊業界には「特有の人材確保の難しさ」があります。基本的に、24時間対応が求められるサービス業であり、他業種以上に質の高いスタッフを揃える必要があるからです。
「商品」ではなく、「快適さ」を提供する業界であるため、ホスピタリティマインドをもった人材を育成しなければなりません。特に人手不足の影響で、従業員の教育や労務管理が十分に行き届かず、サービスレベルの低下や、従業員の離職率増加に繋がるケースもあります。
既存事業とは異なる労務環境の整備や魅力ある働き方の提案が、不可欠となるでしょう。
コスト削減と収益構造の最適化の難しさ
異業種からの参入では、ホテル運営のコスト削減努力が不十分であったり、設備維持費や人件費が収益を圧迫するケースが少なくありません。ホテル業界には、独自の運営ノウハウや専門性が不可欠だからです。
たとえば、単に人件費を削減しようとすると、サービスの質が低下し、顧客満足度を損なう可能性があります。また、最新ソリューションを導入しても、選び方を間違えれば、かえってコストがかさむことになります。
さらに、過剰な設備投資や需要の過大予測は、資金繰りを悪化させ、経営破綻につながることもあります。異業種からホテル事業に参入して成功するには、こうした専門性を深く理解し、適切な運営体制を構築することが極めて重要です。
宿泊業の異業種参入が成功するために欠かせない3つのリューション
では、宿泊業の異業種参入が成功するために欠かせない3つのソリューションとは何でしょうか。必要不可欠な3つをご紹介しましょう。
異業種参入が成功するために欠かせない3つのソリューション
- 予約システム:予約管理の負担を軽減
- セルフチェックインシステム:無人でもチェックインが可能
- スマートロック:鍵の受け渡しが不要
これらのソリューションは、初期投資や運営コストを抑えつつ、効率的なオペレーションと顧客満足度向上を同時に実現できます。ホテル業界のノウハウを持たない企業でも、参入障壁を大きく下げることができるでしょう。
それぞれ解説していきます。
予約システム:予約管理の負担を軽減
予約システムとは、宿泊施設が予約の受付や管理を、効率的に行うためのソフトウェアです。PMSやサイトコントローラーと連携して使用すれば、宿泊施設の運営をより効果的に行うことができます。
主に、次のような機能があります。
予約システムの機能
- 予約の受付、変更、キャンセル処理
- 空室状況のリアルタイム管理
- 客室の状態(滞在中、空室、清掃中など)のリアルタイム確認
- 顧客情報の登録と管理
- 宿泊履歴、好み、アレルギー情報などの記録
- 支払い処理と売上管理
- 追加精算の確認、日次売上集計
- 売上や稼働率などの重要データの集計
このように、予約業務だけではなく、顧客管理やデータ分析など、手作業による予約管理の負担を軽減し、ヒューマンエラーを減らすことができます。
セルフチェックインシステム:無人でもチェックインが可能
セルフチェックインシステムとは、ゲストが自身のスマートフォンや、旅館に設置しているモバイルなどを用いて、チェックイン作業を行えるシステムです。スマートキーや予約システムと連携することで、フロント業務が24時間自動化し、人手不足の解消に効果的です。
主に、次のような機能があります。
セルフチェクインシステムの機能
- チェックイン・チェックアウト処理
- 本人確認(AIカメラやパスポート照合など)
- 予約情報の自動取得(サイトコントローラー経由)
- 宿泊者情報の台帳記録
- パスポートデータの取得と管理
- 決済処理(クレジットカード、QRコード決済など)
- 鍵の受け渡し(スマートキーとの連携、ナンバーキーの発行など)
チェックイン時の待ち時間が短縮されることや、多言語対応が可能になることから、サービス品質を高め、ゲストの満足度や安全性を向上させる施策となります。
スマートロック:鍵の受け渡しが不要
スマートロックは、ゲストのスマートフォンなどを利用して、客室の解錠・施錠を行う電子キーです。物理的な鍵が不要となるため、フロントでの鍵の受け渡し業務がなくなります。
ゲストに事前に知らせたパスワードやQRコードなどを利用するため、鍵の持ち歩きが無くなり、紛失や複製などのリスクもありません。そのため、不審者が侵入するというトラブルが無くなり、セキュリティ効果も高くなります。
他にも次のようなメリットがあります。
スマートロックの導入メリット
- 鍵の受け渡し業務の削減・無人化
- 鍵の複製や紛失リスクが大幅に減少
- 解錠・施錠履歴を遠隔で一元管理
- 不審なアクセス(部屋の解錠など)をすぐに把握可能
- 効率化による運営コスト・人件費の削減
その他にも、キーごとに「有効期限」を設定することができるので、予約のない人の不正入室や無断延泊などを防止することができます。チェックインシステムと連携することで、フロント業務の省人化を促進し、結果的に「コスト削減」にも大きく貢献します。
【まとめ】異業種参入で変化する宿泊業界
現在、宿泊業界には多くの企業が参入しています。異業種からでも、既存のサービスや独自のサービスを打ち出すことで、独自性を生み、話題となっているホテルも少なくありません。
一方で、宿泊業界ならではの課題もあり、失敗して撤退を余儀なくされるケースもあります。
新規参入を検討する際は、ホテル運営のノウハウをしっかりと身につけるとともに、セルフチェックインシステムやスマートロックといった最新のIoTシステムをうまく活用することが、参入障壁を大きく下げる鍵となります。参考にしていただけましたら幸いです。
執筆者より
本記事で紹介された異業種参入の動きには、まさに時代の転換点が表れています。インバウンド需要の回復も追い風となり、ホテル市場は新たな成長フェーズに入っていますね。異業種からの参入は、従来事業の強みやブランド体験を宿泊運営に活かせる点が大きな特徴で、差別化の鍵にもなり得ます。
当社としても、従来型の運営に加え、無人化・スマート化ソリューションを組み込んだ新モデルの創出に取り組んでいます。ホテル業界の新潮流を的確に捉え、シームレスな体験と強い収益構造の両立を今後も推進してまいります。