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公開日2023.05.05

最終更新日2023.07.20

温泉旅館の新しい経営のカタチ?泊食分離と地域連携について

コロナウィルスの水際対策緩和以来、宿泊事業者はインバウンドを取り込む動きが活発になっています。特に「ニーズはあるのに利用が伸びない」といわれる温泉旅館も様々な取り組みが始まっており、中でも「泊食分離」という経営スタイルが注目されています。泊食分離とはなにか、事例や成功するポイントなどを解説していきます。

泊食分離は旅館の稼働率を上げ、地域活性化も実現できる施策

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2022年のコロナウィルスに対する水際対策を緩和して以来、急激に訪日する外国人観光客の数が増えています。各分野でも、以前のような活気を取り戻すために、様々な取り組みが始まっています。

宿泊事業者にとっては、コロナ以前の活気を、一気に取り戻す機会となりますが、課題も山積みです。特に温泉旅館は、「ニーズは有るのに利用されにくい」ことがコロナ以前から問題となっており、ホテルに比べてインバウンドの稼働率が低いのが現状です。

それを解決する施策として、「泊食分離」が注目されています。インバウンドを取り込むための、新しい経営のカタチである泊食分離について解説します。

泊食分離とは

泊食分離とは、2017年から観光庁が推進している宿泊スタイルに関する施策です。宿泊施設、特に温泉旅館において、「宿泊料金と食事料金を別にする」ことで、施設自体の利用を促し、地域の飲食店の利用を増やすことを目的としています。

この施策が有効なのは、外国人旅行者が「1泊2食付き」というシステムに馴染めず、敬遠する傾向にあるからです。旅館が「素泊まり可能」になれば、選んでもらえる確率が高くなります。

日本人にとって、温泉旅館の魅力の一つが、旅館での豪華な夕食や朝食です。しかし、多くの外国人旅行者は、豪華な食事で料金が高いなら、安く泊まって自分が選んだ飲食店で食事をしたいと考えます。長期滞在を希望する旅行者にとっても、毎日同じ様な食事は要らない上、食事の時間に行動が縛られてしまいます。

食事なしでの宿泊なら、日本文化の一つである旅館を体験しつつ、時間を気にせず自由に観光できます。さらに、地元の他の飲食店を利用してもらえることから、地域活性化にも貢献できるという効果もあります。

泊食分離が旅館の稼働率を上げる理由

泊食分離が旅館の稼働率をあげます。それは、宿泊者の選択肢が増えることで「素泊まり」をしたい旅行者にも選んでもらえるからです。旅館の食事を楽しみたい人はもちろん、温泉だけを楽しみたい、旅館での宿泊体験をしてみたい人も呼び込むことができます。

また、地元の名物やレストランを目的に来た人も、気軽に宿泊できる旅館なら、宿泊したい人もいるでしょう。主要都市や駅に近いなら、ビジネスホテルの客層も取り込むことが可能です。泊食分離は、単価は下がりますが、連泊客なども増えます。結果的に旅館の稼働率が上がり、収益が増える施策となります。

宿泊客の多様化に対応できる「泊食分離」

世界的に旅行の形態が多様化している中、日本の温泉旅館は昔ながらのスタイルを続けようとする傾向があります。もちろん伝統を守ることは必要ですが、それがニーズと離れていると客離れの要因となり、最悪「廃業」にもなりかねません。

残すべきところは残した上で、多様な要求に対する柔軟な対応の一つが宿泊分離といえるでしょう。

 

泊食分離が地域活性化に貢献する理由

宿泊分離は地域活性化にも貢献します。旅館で食事をしない人が、地元の飲食店を利用するようになるからです。旅館で夕食を取る場合、当たり前ですが、決められた時間に、決められた場所にいなければなりません。温泉にゆっくり入り、旅館の食事を取っていると、街を散策する時間は以外と少ないのです。

決められた食事が無いと、時間を気にせず、街のお店で食べ歩きやお酒をゆっくり楽しむことができます。地域の文化に触れたり、時間のかかるプログラムに参加したり、旅館以外で地元を満喫することができます。
泊食分離は、宿泊客が地域をゆっくり楽しむことで、活性化に繋がる施策です。

「宿泊特化型」は訪日外国人に好まれるスタイルでもある

宿泊分離(宿泊特化型)は、訪日外国人にとって当たり前のスタイルです。特に、欧米の旅行者は、同じ宿泊施設に長期で滞在するケースも多く、毎日同じ料理だと飽きてしまいます。また、宗教などの理由で、ほとんど食べることができない外国人旅行者もいます。

他にも、外国人旅行者にとって、「食事付き」は次のような問題となります。

外国人旅行者の「食事付き」で問題となる点

  • 他の飲食店を試せない
  • 宿泊料金が高くなる
  • 連泊すると同じような料理が続いてしまう
  • 料理が合わない場合、食べるものがない

多くの外国人旅行者は、ガイドブックやネットからの情報で、地域の情報を調べ尽くしています。特に飲食店にこだわる人も多いため、「宿泊特化型」を選択する傾向が強いのです。
そのため、泊食分離は、温泉旅館に取って、稼働率を引き上げる新しい経営の形となるのです。

泊食分離のメリット・デメリット

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実際に、泊食分離を行うと、どのようなメリットやデメリットが生じるのでしょうか。旅館と地域にそれぞれについて、みていきましょう。

旅館にとってのメリット・デメリット

まずは旅館にとってのメリットとデメリット、そして宿泊客にとってのメリットについて解説します。

泊食分離・旅館にとってのメリット

泊食分離の旅館のメリットは次のようになります。

泊食分離:旅館のメリット

  • 客室稼働率(OCC)が上がる
  • 連泊増加で収益率が上がる
  • 業務の簡素化が実現する
  • 人手不足が解消される
  • 省人化運営が実現できる
  • 顧客満足度が上がる

泊食分離の旅館の最大のメリットは、客室の稼働率が上がることです。単価自体は下がりますが、利益は増えることになります。また、食事の用意をしなくてもよい客室が増えるので、全体的な作業が簡素化します。今までよりもスタッフの数を減らせるので、人手不足解消や経営の省人化にも繋がります。

また、宿泊スタイルを選べることは、顧客満足度を上げる効果もあります。
泊食分離は、食事付きも選べるので、宿泊者にとって特にデメリットはありません。

泊食分離・旅館にとってのデメリット

次に、泊食分離による旅館のデメリットをみていきましょう。素泊まりが増えることで、単純に単価が下がります。ビジネスホテルを競合としてしまうとさらに利益が出にくいので、温泉などの付加価値をアピールして、価格設定はある程度工夫する必要があります。

さらに、食事の用意が必要な客室と、食事の用意がいらない客室があるので、慣れるまではフロント業務が複雑になる可能性があります。ただし、チェックインシステムなどをうまく取り入れることで、フロント業務を大幅に簡素化することができます。

地域にとってのメリット・デメリット

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次に、地域にとってのメリット・デメリットをみていきましょう。

泊食分離・地域のメリット

地域にとってのメリットは次のようになります。

旅館だけではなく、地域の商店や観光スポットを楽しむ余裕が生まれることで、地域が活性化します。泊食分離は地域との連携が必要なので、地域社会の関係性が深くなることもメリットといえます。

泊食分離・地域のデメリット

次に、地域に取ってのデメリットです。大きなデメリットはさほどありませんが、そもそも地域と連携ができていない場合は、泊食分離は難しいでしょう。夕食を取りたくても、飲食店が早めに閉まる地域では、旅館で食事をする以外に選択肢が無くなります。

泊食分離:地域のデメリット

  • 周辺地域の旅館や商店、飲食店との連携が必要

さらに交通手段や、外国人旅行者が利用しやすいお店がなければ、利用には繋がりません。そのためには、旅館と飲食店などの店舗、場合によっては自治体との連携が必要です。

あわせて読みたい記事

泊食分離の最新成功事例

実際に泊食分離を取り入れて、成果が出ている実例をご紹介しましょう。なお、宿泊プランについては執筆時点での情報ですので、最新の提供プランは公式ホームページよりご確認ください。

地域一体で泊食分離に取り組んだ和倉温泉

和倉温泉は、多様化するお客様のニーズに応えるべく、準備から半年で「泊食分離」を期間限定でスタート。旅館単体ではなく、和倉温泉が地域一帯となって取り組んだプロジェクトです。旅館やホテルが頑なにお客様を囲い込むのではなく、地元の飲食店を利用し、更に良い旅を提供したいという思いが形となりました。

コロナ禍での実施だったため比較対象がないものの、新しい顧客の獲得にも成功。参加した飲食店と旅館、ホテルなどが深く連携・交流できたことも大きな成果となったようです。

「泊食分離プラン」が大好評の碧き島の宿 熊野別邸 中の島

2019年に、和歌山県の風光明媚な那智勝浦町で、「一島一リゾートホテル」としてオープンした碧き島の宿 熊野別邸 中の島は、「泊食分離プラン」が大きな話題となりました。開業後、すぐにコロナウィルスの影響を受けたホテルは、ホテルのダイニングで密を避けるために、秘策として「泊食分離プラン」を実行。地元の名産品を味わえる名店とコラボしたプランを選択すると、お客様は、ホテルから船に乗って飲食店(勝浦港)へ向かいます。

食事自体がエンターテイメントとして話題となり、最高売上を達成、「泊食分離プラン」は、今なお大人気のプランです。

泊食分離を成功させる3つのポイント

泊食分離は、単に旅館の「食事の有り、無し」プランだけでは成功しません。宿泊利用者に心から満足して貰うには、いくつかのポイントを抑える必要があります。泊食分離を成功させる3つのポイントは次の通りです。

泊食分離を成功させるポイント

  1. 地域との連携と協力体制
  2. 料理提供スタイルの見直し
  3. 旅館業務の効率化

地域との連携と協力体制

泊食分離は地域との連携と協力体制なしには成立しません。旅館以外で利用できる飲食店を把握するだけではなく、近隣の飲食店に対し、泊食分離を行うことの説明をしなければなりません。

特に、次のような事項での「すり合わせ」が必要です。

近隣の飲食店を情報共有すべき事項

  • それぞれの施設の営業時間
  • 外国人旅行者が好むメニューの確認(要請)
  • どの程度の客数を受け入れられるか

飲食店以外の店舗とも連携し、快く協力してもらうための「良好な関係づくり」が成功のポイントです。協力し合うことで、お互いや地域にとっても、大きなメリットがあることを伝えます。「旅行者を地域でおもてなしする」ことは、地域を好きになってもらい、リピーターを増やすことに繋がります。

料理提供スタイルの見直し

通常の「1泊2食付きプラン」も継続しつつ、料理提供スタイルの見直しを行いましょう。たとえば、当日急に食事が必要になった人に対応できる手軽なメニューの開発や、バイキング形式の導入などが考えられます。また、ベジタリアンの多いインバウンド向けに肉や魚を全く利用しない料理や軽食なども用意しておくと、利用される可能性が高くなりす。

特にバイキングでは、好きな料理を好きな時間に食べられるので、外国人旅行者には好まれます。

旅館業務の効率化

泊食分離をスムーズに行うには、業務の効率化をすすめる必要があります。食事の有無の確認やサービス、料金体系が複雑になるからです。解決策として、セルフチェックインシステムなどのシステムを導入すると業務が簡素化します。フロント業務の多くを自動化できるだけではなく、多言語に対応するので、外国人旅行者にとっても旅館を利用しやすくなります。

また、スマートロック(RemoteLOCKなど)を導入すれば、鍵の受け渡しや持ち歩きが無くなります。泊食分離は、旅館の外で過ごす時間が長くなるので、紛失や盗難リスクも無くなります。旅行者にとっても、安心して街歩きや観光が楽しめるシステムです。

【まとめ】泊食分離は温泉旅館の稼働率を上げる新しい経営の形

いかがでしたでしょうか。泊食分離は温泉旅館にとってメリットの多い施策です。旅館の稼働率が上がるだけではなく、地域活性化にも貢献するからです。

「旅館」自体にはニーズがあるものの、豪華な食事付きというスタイルに戸惑う外国人旅行者が多いため、「選択ができる」ことで多くの人が関心を持つようになります。温泉旅館の新しい経営の形である「泊食分離」についてご理解いただけましたら幸いです。

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