最新事例からわかるホテルのリニューアル戦略とは?
コロナ禍により経営が苦戦するホテル市場ですが、いまだからこそできる大規模な施設改装や、設備投資を行うホテル事業者も少なくありません。この記事では、最近リニューアルオープンした宿泊施設の事例や、最新のリニューアル戦略について解説します。
最新のホテルのリニューアル事例
コロナ禍で思うような集客ができない今だからこそ、アフターコロナを見据えたホテルの大規模なリニューアルが増えています。リニューアルの最新トレンドは、従来のような、古くなった客室や設備を改装したり、流行りのテイストを少し付け加えたりするなどのリフォームとは大きく異なります。
大きなポイントとして、施設全体にITシステムの導入をし、ゲストとホテル双方の利便性を強化することや、施設自体を刷新するようなフルリノベーションで、ホテルに新たな価値を加えているということです。
では、実際にどのようなリニューアルが行われているのでしょうか。この章では、最新のホテルの事例を3つご紹介していきます。また次の章では、ホテルリニューアルの背景にある戦略やコンセプト、そしてゲストのニーズの変化について解説していきます。
最新のリニューアル戦略を知ることで、”今、求められるホテル” とはどのようなものか、お分かりになるでしょう。ぜひ参考にしてください。
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アフターコロナを見据えてリニューアル 「金沢彩の庭ホテル」
半年以上をかけてリニューアル工事を行った金沢彩の庭ホテルの最大の特徴は、新たに「ファミリールーム」として大人数が宿泊できる客室を作ったことです。もともとあった2つの客室をつなげて一部屋にし、ダブルサイズのベッドを4台設置することで、最大8人まで宿泊が可能。お子様連れの家族や世代を超えたファミリーが利用しやすく、新規やリピート客の増加が期待できます。
コロナ禍で観光の在り方が変わり、ホテルに滞在する時間が長くなっている現状に柔軟に対応したリニューアルといえるでしょう。
伝統と利便性を兼ね備えたホテルへ 「プレジデントハカタ」
プレジデントハカタは、客室内装や家具、備品の一新をはじめ、カードキーや自動チェックインシステムの導入で利便性のアップやレベルの高い感染症対策を実現するなど、段階を踏んでフルリニューアルを行ってきました。
コロナ禍でのテレワーク需要に応えるための高速通信ケーブルや最新システムを導入する一方で、和モダンルームや伝統工芸のオリジナル照明を取り入れています。スタイリッシュでありながら居心地の良い客室を作り、アフターコロナでのインバウンド需要にも備えています。
明治の邸宅を古民家ホテルにリニューアル 「NIPPONIA HOTEL」
愛媛県大洲市で明治時代に建てられた空き家をリニューアルしたホテルが話題になっています。明治時代後期に建てられた数軒の邸宅を大洲市の「観光地域づくり法人」が改修、古民家ホテルとして生まれ変わりました。中には国登録遊芸文化財も含まれており、一棟貸切プランなどで、情緒ある雰囲気を心ゆくまで味わうことができます。
こういった取り組みは、単に空き家のリニューアルだけではなく、地域活性化やふるさと創生にもつながり、地元や自治体からの支援を受けやすく、遠くからファンが訪れるようになるなどの効果もあります。
事例からわかるリニューアル戦略のトレンドとは?
従来のホテルの改装などとは違い、ホテル独自の価値観やコンセプトなどが強く反映されていることがお分かりになりましたでしょうか?前の章でもご紹介しましたが、最近のトレンドは「明確な価値観やコンセプト」などを持っているホテルです。というのも、ゲストが宿泊施設に求めるものが、コロナ以前とは違ってきているからです。
たとえば、外出規制やテレワークなどによる「コロナ疲れ」が社会的な問題になっていますが、そういう人たちが気分転換や非日常感を味わうためにホテルを利用するケースが増えています。
また、人気の観光地やテーマパークなどに遠征する代わりに、家族やグループ単位で近くのホテルで滞在自体を楽しむという休日の過ごし方も増えています。そういった要望に応えるべく、「ただの宿泊先」ではなく、ホテル自体が目的となるような価値観やコンセプトを持つホテルがトレンドになっています。
しかし、ただ「変わっているホテル」というだけではゲストの心をつかむことはできません。この章では、リニューアル戦略のトレンドを次の3つに分けて説明していきます。
リニューアル戦略のトレンド
- ホテル滞在の快適性を追求
- 家族・グループやリピート層の誘客
- 既存の価値を活かす
ホテル滞在の快適性を追求
快適性を追求し、ホテルの滞在自体を楽しんでもらうというコンセプトです。最近では、たとえ観光地に行ったとしても、営業時間の短縮や感染症予防のため観光する時間が短くなっています。
言い換えればホテルでの滞在時間が長くなっていることにもなりますので、ホテルの快適性をアピールし、ホテルを目的としてもらう戦略です。例として次のようなリニューアルがあります。
- ベッドの快適性を追求
- ベッドのサイズをワンランクアップ・サイズアップする
- 布団を高級羽布団に変える
- まくらを数種類から選べるようにする
- 部屋の快適性を追求
- 防音対策をし、隣室から聞こえる音をシャットダウンする
- 最新の空気清浄機を導入し、徹底的に感染症対策やハウスダスト、花粉症対策
- 静音設計の冷蔵庫や最新のヘアードライヤーなどを装備する
- 滞在中の利便性を追求
- セルフチェックインシステムで非対面接客
- スマートロックで鍵の受け渡しや持ち歩きをなくす
- チェックアウト時間を遅くして、ゆっくりと帰り支度ができるようにする
このようなリニューアルでは、日頃の疲れをゆっくりと癒やしたい人や気分転換にホテルを利用したい人にとって強いアピールになります。
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家族・グループやリピート層の誘客
ホテルといえば、隣室に対して子供の鳴き声や会話などの気遣いや、子供の添い寝をするには狭いベッド、大人数で利用した際の鍵の管理など、お子様連れの家族やグループ単位での宿泊には不便な面もありました。
しかし、ファミリーやグループでも利用しやすいようにリニューアルする施設が増えており、リピート層の誘客に成功しています。ファミリー・グループを誘客する戦略として次のようなものがあります。
- 部屋の広さを追求
- 二つの部屋を一つにするなど広さや間取りの工夫
- ベッドを増やし家族連れやグループでの宿泊に対応
- 子供連れのゲストが喜ぶ場所の提供
- 和洋室などにし、子供が裸足で遊べるスペースを確保
- 大人も安心できる、充実した子供用プレイルームの設置
- 安心して添い寝ができるベッドの設置やサイズアップ
- 子供用の食器やアメニティを充実
- 家族・グループが喜ぶ施設・設備
- 家族・グループ単位で利用できるパーティールームや映画館
- 家族・グループ単位で利用できる温泉や風呂場
- スマートロックでグループ間の鍵の受け渡しや紛失を防止
- 部屋の広さを気楽に過ごせる場所の提供
- 空き家などをリノベーションし、一棟貸し宿泊施設とする
- スタッフなどに気を使わないセルフチェックインや無人接客施設
ホテルをただの宿泊先ではなく、家族やグループが楽しめる場所としてリニューアルすることで、「あのホテルなら周りを気にせず楽しめる」とファンやリピート客の獲得に繋がります。また、グループ単位で満足してもらえれば、グループで楽しめるホテルとして口コミでも拡散されやすくなります。
既存の価値を活かす
従来のホテル=洋室のイメージではなく、日本ならではの価値観や古い文化などを残したり、取り入れたりすることでファン層を拡大している施設も増えています。和モダンという言葉があるように、若いゲストや外国人観光客にとって利便性がありつつ和のテイストがあるホテルは個性派ホテルとして需要があるのです。
さらに、既存のホテルの全てをフルリニューアルするのではなく、面影を残しつつ生まれ変わることで、古くからのゲストにも歓迎されることになります。
- 既存の価値を生かした施設
- 和のテイストを取り入れる
- 洋室と和室をミックスした和モダンルームの設置
- 照明や装飾品に地元の伝統工芸品を利用する
- 朝食に和食を充実させる
- (例:ご飯もおかゆ、雑炊、五穀米などに増やし、プランドにこだわるなど)
- スタップの制服に和のテイストを取り入れる
- カーテンではなく紙のブラインドや障子を利用する
- 古い施設をリニューアルした施設
- 古民家をリノベーションして宿泊施設にする
- 空き家を和風にフルリノベーションして宿泊施設にする
- 古い施設を壊すのではなく、再利用して「なつかしみ」を演出する
このように、既存の施設や価値を生かしたり、和のテイストを取り入れたりするだけでも、他のホテルとの差別化が計れます。ただし、古い価値観を活かすためには、最新のシステムを導入し、利便性も共存させることが前提となります。
リニューアル戦略のポイント
最新のリニューアル戦略は「コンセプトを明確にする」ことが鍵となります。今までのような「広く多くの方に宿泊し、満足していただく」だけでは競合に打ち勝つことは難しくなっているからです。
コンセプトが明確で注目を集めているホテルの例
- 自転車好きの方が自分の自転車を持ち込めるホテル
- 自分の別荘のように利用できるサブスクタイプのホテル
- コンテナやトレーラーを客室にして、非日常感を演出する宿泊施設
まずは、ターゲットをより細かく想定し、そのゲストに向けたコンセプトのもとでリニューアルを行うことが重要になるでしょう。これらは、迫り来るアフターコロナの需要回復やインバウンドに向けた戦略にもなるのです。
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【まとめ】最新事例からわかるホテルのリニューアル戦略とは
いかがでしたでしょうか?本記事では最新のホテルのリニューアル事情や戦略についてご紹介しました。コロナ禍でホテル業界は苦戦を強いられていますが、このピンチをチャンスにと単純にホテルを改装するだけではなく、コンセプトを明確にしたフルリノベーションが最新のトレンドとなっています。
最新のリニューアル戦略のポイント
- ホテル滞在の快適性を追求
- 家族・グループやリピート層の誘客
- 既存の価値を活かす
しかし、単にリニューアルすれば良いのではなく、ターゲットを絞り、そのゲストに向けたコンセプトで施設をリニューアルすることが、成功の鍵を握ります。ホテルのリニューアルについて参考にしていただけましたら幸いです。