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公開日2022.07.14

最終更新日2023.08.30

インバウンド再開が宿泊施設に与える影響と必要な備えとは?

去る6月10日、新型コロナの影響で停止していた外国人観光客の受け入れが再開されました。再開は2年2カ月ぶりとなります。宿泊業界にとっては朗報ですが、業界を取り巻く環境はコロナ以前とは大きく異なっています。そこで今回は、インバンド再開における宿泊業界の課題と対策について、事例をまじえながら解説してまいります。

インバウンド再開への期待と不安

富士山

政府は6月10日、新型コロナウイルスの水際対策で停止していた外国人観光客の受け入れを再開しました。観光目的の外国人の入国を認めるのは2年2か月ぶりとなります。当面は感染リスクを抑える観点から、旅程を管理しやすい添乗員同行のパッケージツアーに限定されます。

政府は6月から入国者数の上限を1日あたり2万人に引き上げており、観光客もこの枠内で受け入れることとしています。ただし、ツアーの募集やビザの発給に一定の時間を要するため、実際にツアー客が日本を訪れるには2~4週間程度のタイムラグがありそうだと見込まれています。

外国人観光客受け入れの現状と今後の見通し

この動きについて、旅行業界、宿泊業界、航空業界などから広く期待が集まっています。しかし、コロナ以前の2019年の訪日外国人は3,188万人。1日2万人の上限が設けられている現状では、その水準には遠く及びません。岸田総理は、5月末の講演で6月10日からの訪日外国人観光客の受け入れ再開を表明した際、今後については「感染状況を見ながら、段階的に平時同様の受け入れを目指していく」と述べています。

INBOUND

業界団体などからはさらなる入国制限の緩和や撤廃を求める声が上がっており、7月には入国者の上限を3万人に引き上げる案が検討されているとの報道も出ていますが、本稿執筆時点で具体的なスケジュールは明らかになっていないというのが現状です。

全面的な受け入れ再開の時期について、旅行業関係者の間では、年内と予測する見方や1~2年かかるという見方などさまざまにあるようです。感染状況との関連性もあるため正確な予測は困難ですが、いずれにしても緩和の方向で進んでいくことは間違いないとみて良いでしょう。

円安で注目を集める日本旅行

2020年3月に入国が大幅に制限されてから2年2か月が経過しました。この間、世界各国では日本を上回る水準でインフレが進行し、一方では、特に今年に入ってから急激な円安が生じています。2019年の平均ドル円レートは1ドル109円でしたが、本年6月に入ってからの平均レートはおよそ1ドル134円です。

これは、日本国内でのドルの購買力がコロナ前と比べて約26%高まっていることを意味します。これに、日本をはるかに上回る勢いでインフレが進む欧米との相対価格の違いを加味して考えると、これから来日してくる訪日外国人(特に欧米に住む外国人)は、日本の商品やサービスの安さに驚くことでしょう。日本の物価の安さは以前から言われていましたが、このところの急激な円安と各国のインフレによって、さらに際立っています。

外国人観光客

このことは、外国人観光客にとって日本の観光に関わるコストが安くなり、日本旅行が強い価格競争力を持ったことを意味します。観光庁や日本政府観光局によると、訪日に関する海外からの問い合わせは多く、観光需要が膨らんでいることがうかがえますし、世界経済フォーラム(WEF)が5月24日に発表した2021年版の旅行・観光開発力に関する調査では、日本が1位となっています。(2位米国、3位スペイン、4位フランス、5位ドイツ)

また、実際に日本旅行に関する検索数、予約数も増加しており、アジア向けの添乗員付きツアーを取り扱う英国の旅行会社では、日本向けパッケージツアーは向こう3年分の需要を抱えているといいます。国内では、旅行業界だけでなく、デパート業界、飲食業界などからも外国人観光客の購買力に期待が高まっています。

これらのことを踏まえると、これからの外国人観光客に向けたサービスにおいては、単に人数を増やすことだけでなく、1人当たりの滞在日数を増やしたり、リピーターの再訪を促したり、付加価値が高く客単価の大きいサービスを提供したりといった、質的な進化を追求することが重要になってくると考えられます。

インバウンド再開に不安はないか

インバウンドの再開にあたって、外国人観光客を受け入れる側の日本国内の事情はどうでしょうか?本稿のテーマである宿泊業界に絞って、これからの課題となるポイントなどをみていきたいと思います。

インバウンド再開にあたり、観光庁から旅行会社向けに感染症対策を主眼としたガイドラインが示されました。ツアーに参加する外国人観光客へのマスク着用、手洗い・消毒の徹底、ソーシャルディスタンスの確保など、従来の国内における対策に準じる内容となっています。これは当然、宿泊施設においても同様の配慮が必要となります。

多くの宿泊施設では、これまでも国内旅行者に対して充分な対策を行なってきた実績を踏まえて対応することが可能だと思われますが、接する相手が外国人ということになりますので、コミュニケーション上の工夫が必要でしょう。

ITイメージ

次に、特に宿泊業界において特徴的な課題として人手不足の問題があります。今年4月に帝国データバンクが実施した調査によると、「旅館・ホテル」は2022年4月の正社員の人手不足割合は45.9%、非正社員では56.1%と、全業種の中でも特に高い数字を示しており、人手不足が原因で倒産したケースも少なくないそうです。

これに加えて、生産年齢人口の減少などにより今後はこれまで以上に採用が難しくなるという日本社会の構造上の問題もあります。単に、インバウンド再開への対応という次元を超えて、デジタル化などを活かした業務の自動化や省人化が必須の課題だといえます

もう一つ付け加えておきたいのが、1-2でも述べましたが、外国人観光客に対して提供するサービスの高付加価値化です。背景として、円安の進行によって訪日客の購買力が高まっていることもありますが、一方、いわゆるオーバーツーリズムの問題があります。

銀座

コロナ以前には、「訪日客が増えすぎて観光地の雰囲気が壊れてしまっている」という指摘を、特に日本人観光客の間からよく耳にしました。業界がコロナ禍をきっかけにリセットせざるを得ない状況になっている今こそ、新しいサービスのあり方を考える良い機会ではないでしょうか。これからのインバウンドは「数から質へ」という意識の転換も重要なポイントになると考えます。

インバウンド再開に向けた取り組みの事例をご紹介

それでは、インバウンド再開に向けた取り組みの事例として、3社をご紹介します。

ITで業務効率化~スマホで非対面・非接触のホテルサービス、109ヶ国語に対応~

ANAクラウンプラザホテル成田(千葉県成田市)はこの4月、スマホを活用した接客サービスシステム「コトツナ・イン・ルーム」を導入しました。このシステムは、大手旅行会社JTBが翻訳システム開発のKotozna株式会社(東京都港区)と提携し、販売する宿泊施設向けにスマートフォン用コミュニケーションツールです。

宿泊者が自身のスマホでQRコードを読み取ると、施設案内や周辺観光情報などが自身の言語(英語、中国語、スペイン語など109ヶ国語に対応)で表示され、客室から備品の貸し出しやルームサービスの注文などをすることができます。また、ホテルのスタッフとのチャット機能も備えており、宿泊者は施設内のどこからでも気軽に母国語で問い合わせることが可能ですし、スタッフと直に接触せずに用事を済ませることができますので、ウィズコロナ時代のホテルサービスのあり方としても最適と言えます。

ホテル側から見ると、チャットはスタッフが日本語で入力すれば、自動的に宿泊者の母国語に翻訳されますので、外国語が堪能でないスタッフでも迷いなくコミュニケーションを図ることができます。施設の案内やルームサービスや備品の注文もシステム上で管理できますので、業務の効率化、省人化にも適しています。このようなデジタルツールの上手な活用は、間違いなくインバウンド再開に向けてのカギとなるでしょう。

客室付加価値を向上~多言語対応タブレットの設置~

インバウンド再開の有無にかかわらず、コロナ禍の中で厳しい経営環境下にあって、業務の省人化・無人化、非接触・非対面ニーズへの対応を求められてきた宿泊業界は、デジタルツールやDXの活用に積極的に取り組んできました。

ウォーターマークホテル京都(京都市下京区)がxxx (エイジィ) 株式会社(東京都渋谷区)が提供するホテル・旅館向け客室内タブレットサービス「tabii」を導入したのは2020年12月のことでした。客室へのタブレット導入の理由は3つ。1つ目は施設案内、周辺の飲食店や観光事情報などの提供、豊富なエンタメコンテンツの提供などを行うことで客室付加価値が向上することです。次に、検索機能によって宿泊客の問い合わせ対応をタブレットが処理するため、スタッフの業務を軽減でき、人件費の削減が可能という点です。もう1つは、人との接触機会を極力減らし、人の手の触れるチラシなど紙媒体の情報もタブレットに集約できてコロナ対策に適しているという点です。

このタブレットサービスは多言語(英語、中国語、韓国語)に対応しているため、インバウンド再開となれば、さらに強みを発揮することと考えられます。インバウンド再開によってさらなる人手不足が懸念される宿泊業界で、業務の効率化と省人化は喫緊の課題です。このような先々を見据えた対応は良いお手本になるでしょう。

体験価値の提供~英国発、添乗員付き日本行きツアーの中身とは?~

視点を変えて、海外で販売されている日本行きのツアーがどのようなものなのか見てみます。英国で世界各地へのエスコーテッド(添乗員付き)ツアーを販売しているウェンデイ・ウー・ツアーズでは現在「Japan is Open」と題した日本行きツアーのキャンペーンを行なっていて、同社のWEBサイトのトップページにはキャンペーンのバナーと富士山の写真が使われています。

日本行きツアー商品は多数ありますが、その中の一つ「Jewels of Japan」を見てみましょう。このツアーは東京、富士山、京都、姫路などをめぐる11日間のツアーです。価格は5,090ポンド(航空運賃、宿泊費、滞在中の食事代を含む)から、となっています。これは執筆時レートで844,940円に相当します。それでも同社によればすでに3カ月先の需要までも抱えているとのこと。また、ツアーの特徴の中で目を引くのが、「Authentic Experiences(本物の体験)」と題したプログラムです。

ここには「折り紙体験」、「そば打ち体験」、「ゲイシャカルチャー教室」の3つのプログラムが含まれており、一生に一度の体験とうたわれていて、このツアーのセールスポイントとなっているようです。

ここから分かることは、現在確実に日本が注目の旅行先となっていること、費用がわれわれ日本人の感覚からすると相当の高額であること、日本文化という非日常を体験することに大きな価値が見出されていることです。日本の宿泊施設が付加価値の高いサービスを考えるにあたってのヒントが隠れていないでしょうか?

【まとめ】インバウンド再開はITの活用とサービスの高付加価値化がポイント

以上、インバウンド再開に関する現状と今後の見通し、宿泊業界における課題、実際の取り組み事例について述べてまいりました。2年2ヶ月の空白期間を経てのインバウンド再開は、人手不足や訪日客とのコミュニケーションの問題など懸念される要素も少なくありませんが、この間もIT技術やその活用ノウハウは着実に進化しており、新しいツールも次々に生まれています。

これらを賢く活用して、外国人観光客を気持ちよく迎えられる体制を整えたいものです。加えて、コロナ以前と異なる国内外の経済状況を踏まえながら、アイデアを駆使した付加価値の高いサービスの提供を検討してみてはいかがでしょうか。

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