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公開日2019.11.18

最終更新日2022.04.25

【まとめ】ホテルの過剰供給のアラートと競争環境の変化を考察

急激に建設・開業が進むホテル業界に警鐘を鳴らすニュースが続いています。訪日外国人の増加は続いている一方で、今後需給バランスが逆転するという予測や、競争環境の激化により実際に客室単価が下がっている等のデータが出てきています。自社の宿泊施設の客室単価や稼働率への影響は?

過剰供給に関するレポート等の抜粋でお伝えします。

この記事の目次

  1. 1.ホテル業界のバブル 宿泊者数はまだ増えているのか
    1. 1-1.訪日外国人数は2018年に過去最高を更新、2019年も前年同月比を上回るペース
    2. 1-2.国内旅行者数は横ばい傾向。今後減少の予測
    3. 1-3.トータルでは今後も宿泊需要は拡大。外国人比率が高まる
  2. 2.需給バランスの予測。ホテル客室の過剰供給にアラート
    1. 2-1.2021年に9都市で需給バランス逆転の予測 BRE
    2. 2-2.2020年から収益性悪化の警鐘 メトロエンジン
    3. 2-3.関西でホテルで経営評価指標のRevPARが低下  東洋経済
  3. 3.【まとめ】テキスト
    1. 3-1.異業種からの新規参入
    2. 3-2.宿泊特化型、コンセプトの違い
    3. 3-3.人手に対する考え方 ローコスト化と接客サービス

(掲載内容は2019年11月時点の情報です)

 

1.ホテル業界のバブル 宿泊者数はまだ増えているのか

hotel-rush

 

ホテルが建設が進む背景に、 ベースとなる宿泊客数、需要の増加があります。

近年増えていると言われる訪日外国人数と、日本人の(国内)旅行客数の2つに分けてみてみましょう。

 

1-1.訪日外国人数は2018年に過去最高を更新、2019年も前年同月比を上回るペース

 

日本に訪れる訪日外国人数は2018年に3119万(前年比8.7%増)とついに3000万人を突破して過去最高になりました。また延べ人数(泊数)では8,859万人泊(前年比+11.2%)となっております。

 

政府目標では、2020年に4000万人、2030年の訪日外国人の客数を6000万人としており、さらなる訪日外国人の呼び込み・拡大を狙っており、各種予測の中でも訪日外国人数は今後も拡大していくことが予想されます。

 

1-2.国内旅行者数は横ばい傾向。今後減少の予測

 

2018年、日本人の延べ宿泊数はは4億2043万人泊で前年比 -2.2%とマイナスでした。また今年はどうかというと、観光庁の速報値で、日本人の延べ宿泊者数は、2019年8月は前年同月比-2.5%、9月は前年同月比+2.0%となっています。過去数年の大雑把なトレンドでみると、概ね横ばいと判断ができそうです。

 

他方、将来はどうかというと、じゃらんリサーチセンターの予測では、日本人の国内旅行の延べの宿泊数は、2030年度には -14.3% (2016年度比較)と減少することが発表されています。

 

1-3.トータルでは今後も宿泊需要は拡大。外国人比率が高まる

 

2018年の訪日外国人と日本人を合わせた延べ宿泊者数(全体)は5億902万人泊(前年比-0.1%)となっています。訪日外国人の増加分と、日本人の国内旅行宿泊数と相殺がされてました。

 

では今後、〜2030年はどうなるかというと、複数の調査機関からレポートがあり使う指標や数値に差異はありますが、いずれも傾向としては、

今後の宿泊需要 (延べ宿泊者数)

・国内旅行の延べ宿泊者数は減少

・訪日外国人はそれを上回って増加

・全体の延べ宿泊者数は増加

・全体に占める訪日外国人比率は今後さらに上昇

という予測で合致してます。

 

2.需給バランスの予測。ホテル客室の過剰供給にアラート

 

増える訪日外国人とインバウンド需要を背景に、つい数年前では将来の宿泊施設の不足が社会問題として提起されています。実際に、関西等の地域では特に顕著に宿泊施設の不足や、宿泊単価の高騰が発生しました。

 

みずほ総研の2016年8月の試算では、(20年に訪日外国人が4000万人まで増えた場合)全国でホテルが4万4000室不足すると予測しています。その後、社会環境をみたホテルのホテルのオープンや建設計画の発表、国策とし増える宿泊需要への対策として民泊市場の拡大や法制度化も進んできました。ホテル不足に関するレポートには何度か修正した予測が出され、その度に不足幅が縮小されてきました。

 

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2-1.21年に9都市で需給バランス逆転の予測 CBRE

 

CBREが今年(2019年)の6月に出したレポート「2021年のホテルマーケット展望 – 増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル」では以下のような予測が発表されました。

 

2021年のホテルの需給予測

今後予想される宿泊需要から2021年に必要となる客室数を推計した結果、主要9都市で、それぞれ必要とされる客室数よりもストック数が上回るという結果となった。

求められた必要客室数と予想ストックのギャップは都市によって異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福岡で1千室となるも、宿泊需要の回帰と喚起が期待される。

 

と、具体的な都市名をあげた需給の逆転も指摘しています。

 

2-2.2020年から収益性悪化の警鐘 メトロエンジン

 

それよりも一足早い2019年1月、ダイナミックプライシング等の事業を手がけ宿泊市場の調査データをもつメトロエンジン株式会社の田中良介代表は、「民泊カンファレンス」内の「データで読み解く宿泊マーケットのトレンド内で、直近のホテル倒産等での具体例も交え、2020年ホテル供給数の増加から供給過多になり、収益性が悪化すると警鐘を鳴らしています。また、旅行を通じてコト消費を求めるニーズの移り変わりがあると伝えました。

 

2-3.関西でホテルで経営評価指標のRevPARが低下  東洋経済

 

また直近、「過剰供給のツケ、『関西ホテルバブル』に変調」という記事(東洋経済の一井純記者 2019年11月) では、投資法人の公表データおよび施設への取材から客室稼働率(OCC)× 平均客室単価(ADR)で求められるRevPARが関西で下落している事を伝えました。

 

記事で言及された関西地区、大阪のホテルは、平均客室稼働率が86%と、過去3年は稼働率が全国平均の10%上で推移してきた好景気を代表するエリアですが、肌感として感じていた競争の過熱が具体的に示されたことで、にわかに反響を呼んでいます。

 

3.市場環境の変化を考察

 

最後に需給バランスの逆転にあたる供給サイドの動きについてです。

CBRE調査によると、2019年〜2021年の間の新規客室供給数は、昨年時点で3万室だったものが、今年のデータでは8万室と2倍以上の増加と明らかな増加をみせています。

 

需要に供給がおいついてきたとも捉えられますが、観光庁の調査によると、2019年9月時点の宿泊施設全体の客室稼働率は63.8%と、前年同月の61.9%を上回っています。

 

ホテル事業者の現在の不安がどこに起因するかというと、コスト構造の異なる新規参入事業者による価格競争があげられるのではないでしょうか。

 

3-1.異業種からの新規参入

 

現在の急激なホテルの建設・供給客室数には、不動産業界など異業種から新規参入した企業や、既存事業者の中でも業態やターゲットを変えた新しいブランドが目立っています。外国人旅行客が増える中で、受け皿の1つとして期待されていた民泊ですが、賃貸経営などと比較した際の収益性・不動産利回りの高さから、不動産業界から高い注目を集めていました。

 

法制度化に伴い参入を計画していた企業もありましたが、実際に2018年6月に施行された民泊新法(住宅宿泊事業法)は、宿泊日数の制限や設備要件など制約も多く、予想される収益性に下方修正が必要となりました。反対に、同時に改正された旅館業法では、フロント設置要件の緩和など、明らかな規制緩和となりました。

 

その結果、民泊・訪日外国人の宿泊需要に着目していた各事業者は、民泊としてではなく、ホテルとしての参入が相次ぎました。そのため、訪日外国人にフォーカスして、規制緩和を織り込んで作られている最近のホテルでは、既存のホテルとの違いが目立っています。

 

3-2.宿泊特化型、コンセプトの違い

 

近年、レストランや宴会場を部門をもたない宿泊特化型の施設が増えてきました。新規開業においては、旅館やシティホテルではなく、ビジネスホテルに代表される宿泊特化型の施設の比率が非常に高くなっています。客室タイプもシングル客室数から、ツイン・ダブル等の割合が増える等で差別化がなされてきました。

 

前述の異業種新規参入組では、訪日外国人のマーケットに対してレストランやラウンジ等の提供は省き、長期滞在も可能なキッチン付きのレジデンシャルホテル、グループ・ファミリーでの滞在に向いた定員数(客室最大収容数)が大きめの部屋などを備えている等の傾向が高くなっています。これらの施設の中でもコンセプトや価格帯は多様化していますが、グループ滞在が割安あるいは同じ価格帯でグレードが高くなるよう設計されているケースも多くあります。また様々なコンセプトで、小規模な施設が増えていることもあいまって宿泊する旅行客側からみて選択肢が増えている状況にあります。

 

3-3.ローコスト化と接客サービス 人手に関する考え方

 

新規参入の施設では、以下のような特徴が目立ちます。施設の初期投資および、営業後の固定費(特に人件費)に大きな違いが出てきています。

 

  1. ■新規参入ホテルで見られるローコスト化
  2. ・宿泊特化の設計
    レストラン等の機能を持たず、ホテル設計において容積率の多くを客室(収益を生む空間)に割ける。
  3. ・リネン等サービスの一部省略と流動化
    滞在中のリネン交換なし/セルフ等により、経費が削減される。また交換するスタッフも外注化や複数施設で共有されることで固定費が小さく。
  4. ・フロントのセルフ化・無人化、スマート化

    チェックイン・チェックアウトをセルフサービスとする事で、フロントの常駐人員数を圧縮またはなしに。特に100室未満の施設の固定費では大きなインパクト。

 

既存のホテル事業者でも、あがる人件費や人手不足の問題から、スマートロックと精算機等でセルフチェックイン化を進めるケースもあります。こうした業界内でのコスト構造の違いが、客室単価の値付けに反映されたり、今後供給過剰で不況に進んだ場合などでは、経営力の違いとなってくることも予想されます。

 

では、人やサービスを削ることが生き残り策であるかといえば、そうではありません。施設数が増加する中で変わらず好業績をあげつづけるラグジュアリーホテルも存在しますし、8月日経新聞の記事(「金沢でホテル変調 新幹線開業後、客室急増も宿泊伸びず」)内では、白熱する競争と消費者変化への対応として、ホテル日航金沢がコンシェルジュの人員を4人に倍増したことを取り上げています。

 

また、前述のフロントの省人化においても、24Hのフロントスタッフがいない事をそのままコストダウンに繋げれているケースもあれば、顧客サービスにおいては、OTAを介したメッセージでのやり取りで綿密や顧客対応をしたり、IoT機器導入による観光案内の強化、受付をセルフ化する一方でホテルスタッフが別サービスを提供するなど、考え方は様々です。

 

人手とサービスについてどうデザインしていくかが、市場で進んでいく施設固定費のローコスト化をどう捉えていくかが、ひとつのポイントとになりそうです。

 

都道府県別等のデータを確認したい場合は観光庁の宿泊旅行統計調査をご参照ください。

https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shukuhakutoukei.html

 

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