無人・ローコストで宿泊事業の経営を実現する運用ツールの選び方
今回は宿泊事業の展開を検討中の方向け(特にホテル、簡易宿所、民泊物件を無人経営やフロントスタッフを最小限にしたローコストオペレーションを想定されている方)に、必要な運用ツールとその選び方・構成についての解説です。
この記事の目次
- 1.背景/ インバウンド需要と無人の合法化
- 2.無人化が可能かは自治体次第
- 3.常駐/省人/無人で人件費に大きな差
- 3-1.人件費率の統計データ
- 3-2.スタッフの配置人数による人件費の違い(試算)
- 4.スタッフの配置人数による人件費の違い(試算)集客から運用まで。必要なツールは何か
- 4-1.ホテルのフロントオペレーションと利用ツール
- 4-2.民泊の鍵のオペレーションと利用ツール
- 4-3.無人化運用の基本の形
- 4-4.ホテルシステムや現地決済、各種対応はどこまで必要か
- 5.パターン別のツール構成
- 5-1.1室〜数室の施設 運用経験あり
- 5-2.外国人旅行客に特化した(小規模)施設
- 5-3.予約サイトは国内外複数、軽量PMSでホテルに準じた運用を低コストに
- 6.補足とまとめ
(掲載情報は2019年2月時点の情報です)
1.背景/ インバウンド需要と無人の合法化
まずは背景のおさらいです。訪日外国人などインバウンド需要と、Airbnb(エアビーエヌビー)など民泊マーケットが急成長しました。2018年6月に、住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行と旅館業法の改正が行われました。大まかに言えば、法的にグレーと言われていた民泊のルールが明文化されました。
ポイントとして、住宅宿泊事業法では営業日数や設備要件など規制が追加、ホテル・旅館・簡易宿所などはフロント設置義務の緩和がありました。民泊とホテルの境目が小さくなり、条件付きでどちらも無人経営が可能になりましたね。
といった状況で、各種法律や条例、運用上の制約はありながら今まで収益化しずらかった比較的小規模な土地・建物を、数室〜数十室の宿泊施設として活用することに光があたり、その運用方法を検討して、ツールを探している皆様向けのまとめです。
(自治体による差異があるため、必ず事前に用地取得予定先の要件をご確認ください。また、本来は大切な施設のコンセプトやターゲティング、客単価等のお話は触れず、法人参入にあたりローコスト運用を合法でどう実現するかに絞ります。消防法等設備要件もはずします。)
旅館業、民泊、本人確認、カギの受け渡し、サイトコントローラー、PMS、スマートロック、セルフチェックイン、精算機
2.無人化が可能かは自治体次第
まず完全な無人化が可能かは、 旅館業法(ホテル)か住宅事業法(民泊)かの区分と、その物件がある自治体の条例によって異なります。「 本人確認(宿泊者名簿)、カギの受け渡し、駆けつけ要件 」が要確認事項です。
ICT機器などによる代替措置が認められていて上記の要件を満たせそうなら「無人化」を 、条例が厳しい、代替措置が認められない場合は省人化を目指すことになります。
3.常駐/省人/無人で人件費に大きな差
3-1.人件費率の統計データ
日本旅館協会の統計では、宿泊施設の売上に対する人件費率は30-40%です(ホテル・旅館などが対象となり旅館業法改正前統計で有人の前提です。)。客室数の規模により、大・中・小旅館と区分された統計では、小さい施設ほど客1人当り人件費が高く、売上に対する人件費率が高くなっています。(客室単価が比例する訳ではありません。)
規制緩和を受けて従来よりも小規模な土地・建物をホテルとして運用しようとする物件が増える中で、特にマンションや戸建を利用した1棟数室という施設を複数棟計画している場合など、客室数の少ない施設ほどフロントスタッフが常駐すると固定費が重たくなり、スタッフをどの程度おくかがよりクリティカルな課題になります。
3-2.スタッフの配置人数による人件費の違い(試算)
宿泊施設1箇所に、スタッフがいるかいないか、人件費を試算すると以下のようになります。24h対応であれば、シフトを組むため施設あたりスタッフが5名ほど必要になり、フロントだけで毎月100万円程度の費用がかかってきます。(社員+アルバイト想定。深夜手当や社会保険等は含む。)
無人または日中時間帯に絞って1名での対応が可能であれば月1.5名、フロント無人であれば1名未満にする事ができます。(予約管理や本人確認作業など遠隔対応のため、完全な0名にはなりません。ここでは複数施設の対応兼務。) 社員かアルバイトかやその待遇により差異がでますが、年間にしてかなりの違いが出てきます。
スタッフ常駐(24h) | 省人化 | 無人 | |
1日のフロントスタッフ |
常時1名 |
チェックイン時間のみ 日当たり1名 |
フロント無人 |
月の対応工数 (在籍人数) |
4.5人月 (5名) |
1.5人月 |
0.3人月 (2名 複数施設兼務) |
年間人件費 |
110万×12ヶ月 → 1320万/年 |
35万×12ヶ月 → 420万/年 |
7万×12ヶ月 → 84万/年 |
差額(対常駐) |
基準 | ー900万/年 | ー1236万/年 |
4.スタッフの配置人数による人件費の違い(試算)集客から運用まで。必要なツールは何か
4-1.ホテルのフロントオペレーションと利用ツール
ホテルは受付にフロントスタッフがいて、到着すると、フロントで名乗り宿泊台帳を記入して、多くの場合はカードキーを受け取ります。食事提供をしていれば朝食券やアメニティもここで受け取りますね。
ホテル側は、サイトコントローラーと、場合によって自社の予約ホームページがあり、PMS(ホテルシステム)があり、フロントにレジまたは精算端末があります。 カギはカードキーで、各室に電気工事込みのキーシステムとカード発行端末をおき、 客室数プラスアルファのカードキーを購入します。主要なツールと大まかな費用感はこうなります。
・予約サイト、自社予約HP → 主に売上に対する手数料
・サイトコントローラー → 月1ー2万円
・PMS → 導入費で数十万〜
・予約サイト、自社予約HP → 主に売上に対する手数料
・ホテルロック・カードキーシステム → 電気錠1室 20万円〜
・カード端末 → 端末カード1枚数百円
・現金・カード決済端末 → 自動精算機の場合 1台 200-300万円
ここでフロントスタッフが対応している部分の無人化を考えると、宿帳の記入(紙)、ルームキーの受け渡し、精算がネックになってきます。恐らく6割くらいの方は、表の費用感をみて、自物件ではこの時点で初期投資額が大きくなり過ぎると感じるかと思います。
4-2.民泊の鍵のオペレーションと利用ツール
日本の民泊新法以前では、ゲストはホストとメッセージをやりとりして、現地またはポストやキーボックスに入っている物理カギを受け取り、部屋に入ります*。滞在中多くの場合は、部屋または物件には誰もおらず、ルームクリーニングもゲストの入れ替え時のみです。
*一例です。ホストによる待ち合わせや、鍵の受け渡し代行サービス等の対応などもあります。現在セキュリティ上、キーボックスや物理カギは嫌厭される傾向にあります。
支払いは事前に予約サイトを通じて済ませてあり、いわゆるマンションの1室をそのまま内装やインテリアを工夫して客室代わりにしています。日本は家主不在型(現地無人)の民泊が進んでいましたが、セキュリティ面のトラブルもあり法律の改正後には本人確認などが義務付けられ、原則は対面でのやり取りが求められています。
民泊新法を受けた対応は、以下の大きく3パターンになります。
- 1. 法律適合できなかったので、物件の撤退。
2. 有人での対応に切り替え。(旅館業法への切り替え等含む。主に1棟に複数室。)
3.セルフチェックインサービス等を使って法律要件を満たして継続無人運営。
新法施行後の合法要件では以下が主流となっているかと思います。
<スタッフできる限り現地無人>
- ・予約サイト :主に売上に対する手数料
- ・管理ツール(※予約サイト管理と部屋割り・メッセージ機能など)
- ・セルフチェックインタブレット :月2ー3万
- ・スマートロック/電子錠 :1室 数万円
4-3.無人化運用の基本の形
細かい想定の前に、無人対応する施設でのオペレーションは、このような形になることが多いです。まず、お客様が施設に到着すると、入り口にはチェックインの端末が設置されています。お客様が予約番号やチェックイン用のコードを入力すると、端末上で本人確認(必要項目の記入や外国人はパスポートの撮影、TV電話または顔写真の撮影など)をする流れになります。
一連の確認(チェックイン)が終わると、最後に端末上にお部屋やその部屋の暗証番号などが表示されます。本人確認について、先に客室まで入って部屋内で行うケースもありえますが、入室前に行う前者のパターンが増えていると思います。
4-4.ホテルシステムや現地決済、各種対応はどこまで必要か
ホテル、民泊のツール例とした時に、導入システムの規模感に差がでてきます。どんなものにも対応できるのが理想にはなってきますが、この2つの構成の間で自社であったものを探す事になります。
例えばチェックイン(本人確認)方法としては、スタッフが対応して宿帳記入、セルフチェックインサービス、本人確認対応が可能な自動精算機、があります。
また鍵については、電子錠・スマートロックか、カードキーかで周辺費用に大きな違いが出ます。電子錠やスマートロックで暗証番号タイプのカギを選択した場合、タブレットや電子端末上で暗証番号を伝える事で受け渡しを省略できます。
逆にカードキーの場合、物理的なカードを渡す・返却するという作業が発生します。その対応のため、スタッフが必要になるか、カードキーの払い出しができる精算機端末の導入等が必要となります。チェックインタブレットを1台か、1台200-300万の精算機端末かでは、初期投資の金額に差が出てきます。(尚、電子錠とスマートロックでは、セキュリティ面で差が出ます。)
5.パターン別のツール構成
※予約サイトは必須となるため、記載からは省きます。
5-1.1室〜数室の施設 運用経験あり
部屋数が少なく、1つの予約サイトで十分な集客が見込める事がわかっている場合は、純粋にチェックイン対応ができれば無人運用が成立します。
セルフチェックインタブレット+スマートロック/電子錠
その他オープンには提供していないものの、各ツールのオプションや代行事業者が自社向けに保有しているもの等があります。予約サイトとチェックインサービスは直接繋がっていない為、なかなかオール自動化はできませんが、無人運営ができるシンプルな構成です。
5-2.外国人旅行客に特化した(小規模)施設
集客が訪日外国人に絞れていれば、簡易なPMS機能を有する海外予約サイトに特化したツールができます。有力な海外の予約サイト複数を一括で管理するサイトコントローラー機能と、メール・メッセージや部屋割り等の機能が1つのツールで管理できます。
サイトコントローラー(民泊系ツール)
+ セルフチェックインタブレット + スマートロック
国内の主要なサイトコントローラーの場合は、日本の旅行サイトや海外サイトを含めて豊富な予約サイトを管理できる反面、販売可能な客室数など宿泊プラン毎の在庫の管理はしてくれますが、どの部屋にどのお客様を泊めるのかホテルシステムを導入する必要があります。
民泊系の市場で使われてきたサイトコントローラーでは、国内旅行予約サイトは基本対応していないのですが、その分1つのツールで済む事で、費用や日々の管理上のメリットが出てきます。またこうしたツールでは、複数の施設を1つのアカウントで管理できるように設計されており、小規模施設の複数棟管理がしやすくなります。
サイトコントーラー(民泊系ツール)と書いた部分では、国内民泊マーケットの出自では、
「エアホストPMS」、海外の宿泊市場からきたものでは「Beds24」などが挙げられます。
民泊系ツールやチェックインについては、代行事業者がツール提供や自社向けツールの開発などもしていますが、セルフチェックイン用のサービスとしては、ABCチェックイン、民泊イン(エイジィ)、エアサポタッチ(device agency)などがオープンサービスとして早くから提供を始めています。
5-3.予約サイトは国内外複数、軽量PMSでホテルに準じた運用を低コストに
サイトコントローラーは、国内サイト・海外サイトの両方に対応したいという場合、サイトコントローラーは国内の有名どころで、ねっぱん!サイトコントローラー++、手間いらず、TL-リンカーンに絞られてきます。
大規模なホテルシステムを入れるのはオーバースペックという場合に、軽量のPMSが出ています。
(サイトコントローラーを提供するクリップスから「ねっぱん!イージー会計」、PMSを提供する会社でTAPから「accommod(アコモド)」、アルメックス(and Factory)から「innto」など。)
各サービス概ね、1棟数十室くらいをメインターゲットにしています。いわゆるPMS的な、在庫・予約・部屋割りなどの管理画面や、帳票管理など、PMSとして必要な一通りの機能がいわゆるホテルシステムと呼ばれる製品よりかなり廉価に提供されています。
サイトコントローラー(国産ホテル向け)+ 軽量PMS
+ チェックイン端末 + スマートロック/ホテルロック
国内サイトで現地払い、特に現金を認める場合、PMSをハブとして自動精算機を繋ぐ必要がでてきます。精算機端末を置かなくても済む場合は、小型(比較的廉価)なチェックイン用端末または前述のセルフチェックインタブレットを活用することになります。
6.補足とまとめ
旅館業法や民泊新法の施行が18年6月となり、無人運営のホテル・宿泊施設というのは新しい分野になります。各製品が成長や連携を続けており、正直には19年2月現在では、実際に使える各ツールの組み合わせは(自動化を前提にすると)制限があります。
このあたりツールの組み合わせの情報提供までできれば、という主旨ではあったのですが、
(後日アップデートするかもしれません)ツール構成を考える一助になれば幸いです。